人は地から離れては生きられない

なにかあったような気がした

あれもせず

 大人はしっかりしていて社会はたしかなものだと思っていたし、今でも勘違いするときがある。悪いことだとは思わない。間違っていて正すべきものだとも、啓蒙しようなどという気もない。なにか間違っているものがあるとすれば、人間とは切り離せないものだろう。どこの・いつの・だれが悪かったということは言いたくない。どうしようなもない状況に置かれ、どうしようもなかった人間がいるだけだ。あまりにたくさんの人間がほんの少しずつ間違ってしまった結果として巨大な悪(そう呼ぶしかないもの)が生まれることだってある。

 

 あくまでひとつのものの見方でしかないし、もっと違う実践的・科学的な見方のほうがおそらく正しい。けれど人間は生きていかなければならない。社会や人間といったあやふやなものより、ほかならぬ自分を見つめながら人生を進んでいく時間のほうがずっと長い。そう思うようになってから、大きくて遠いものについて語ったり考えたりするようなことはあまりしなくなった。代わりに小さくて近いものと向き合うようになった。自分という存在から始まって、家族・友人・地域の住民、そして彼らが生きる土地。案外悪くないものだと感じる。誰かが間違えたら手を貸し、絆創膏を貼るくらいのことはできる。非凡であることを求め続けた過去の僕がみたら嘆くかもしれない。己を慰撫し続けるだけのつまらない人間だと蔑まれるかもしれない。彼にひとつだけ「君のおかげでこうしていられるんだ」と礼をいえたらと思う。