人は地から離れては生きられない

なにかあったような気がした

隙間

 ときどき自分がとっくに狂ってしまったんじゃないかと不安でたまらなくなる。誰かに話すことはない。「あなたは気が狂っている」と言える人はほとんどいないし、交わされたはずの言葉はすべて気の狂った自分がつくり上げた妄想かもしれない。ベッドに横たわり、一番大きな波が過ぎてしまうのをただ待つ。なにもしない、なにも考えない、なにも決めない。ただ存在することにほとんどの力を使う。ただ存在する、というのは聞こえよりずっと難しい。我々の多くは社会や他者と関わり、定められている。ただ自分が一個の人間としてある。精神と肉体に根ざした存在であることを確かめる。

 

 落ち着いてきたころにライターやアクセサリー、レザーなんかを手に取る。短くない時間使い続け、手入れをして、生活に含まれていたものたちだ。そこから自分が過ごしてきた時間を感じることで、ようやく意識が戻ってくる。人生の線上にまだ立っていることを思い出す。どんなふうであれ、死ぬまでは生きていかなければならない。